医療においてブロックチェーンを使って、医療経済的に適切な行動を促すインセンティブシステムを作れないだろうか。

医療で長年の難題となっているのが、COI(Conflict of Interest, 利益相反)やインセンティブシステム(謝礼や医療ビジネス)に関することである。

これまで、経済的インセンティブにより医療の本質が歪められた事例は、明らかになった有名なゲルシンガー事件、ディオヴァン事件などはもちろんのことだが、グレーゾーンの中で表面化せずに記憶から消えていくもの、もはや黒判定だがたまたま表面化せずに闇に葬られるものも相当数あると想像される。

ブロックチェーンは仮想通貨やトークンを発行する機能を持つことが可能だが、こうした医療の倫理問題に光明をさすことができないだろうか。

ブロックチェーンは、過去に起きたICOの詐欺事件などによって、悪い印象が広がってしまった。ブロックチェーンそのものは優れた技術であることは揺るがぬ真実だ。しかし、その草創期に法制度が整備されていない環境で起きた事件や、秘密鍵管理のノウハウが未熟な時期に秘密鍵が盗まれることなどによって、さまざまな事件が起きてしまった。

ブロックチェーンの本質を知っている人たちは、その間、地道に法整備を進め、技術環境を整え、日進月歩でブロックチェーン全体が進化中だ。

話を戻すと、ブロックチェーンのトークン発行システムを使って、健全なインセンティブ付与ができる可能性があると考える。

トークンは地域通貨的な使い方ができるので、ある特定の医療経済圏を形成し、その経済圏の中で医療に限定した価値の交換ができるようなインセンティブ設計はできないだろうか。

医療で創造された価値を医療に還元する医療経済圏である。

たとえば、医療情報は貴重なデジタル資産であるが、この資産を医療のためだけに活用する経済圏をつくるのである。

患者が自分の医療・健康情報を売った報酬を使って、夜遊びをしたり、車を買ったり、家を建ててしまうのは倫理的に問題があるが、自らの健康管理に利用し健康寿命を伸ばすことができれば、医療費を抑えることもできる。

報酬に法定通貨を使用すると、使用目的を制限できないため、倫理的境界が曖昧になるが、ブロックチェーンで発行するトークンを使えば、スマートコントラクトを使って使用目的、使用量、使用者権限などをコントロールすることができると思われる。

このようなトークンエコノミーが成立すると、法定通貨建ての医療経済とは独立した経済圏が登場し、法定通貨建てによる医療費の削減につながることもあるのではないだろうか。

この医療経済圏では、健康維持や医療技術の向上に資する価値創造が行われるのだ。医療関係者も患者も、適切なインセンティブによって、医療健康活動に取り組むのである。